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人の判断は最初で決まる?アンカリング効果の心理学と活用事例まとめ

アンカリング効果とは

アンカリング効果は、心理学の中でも特に注目されている行動パターンのひとつです。何かを判断するとき、最初に見た情報や数字に大きく影響されるという特徴があり、私たちの日常生活やビジネスシーンに深く関わっています。

「アンカリング効果とは?」「アンカリング効果と心理学の関係性が知りたい」「実際にどんな例があるのか気になる」といった方に向けて、本記事ではアンカリング効果の基本から具体例、応用方法や注意点まで、わかりやすく解説します。

心理学や行動経済学に興味がある方はもちろん、マーケティングや営業の現場で人の意思決定に関わる方にも、役立つ情報をお届けします。

目次

アンカリング効果とは?心理学における基礎概念

判断するとき、最初に見た数字や情報に知らず知らずのうちに影響されていませんか?

たとえば「5,000円の商品が本日限定2,980円!」と聞くと、なんとなくお得に感じてしまうようなことです。

このような現象を、心理学では「アンカリング効果(anchoring effect)」と呼びます。

最初に見た情報が”アンカー(いかり)”のようになって、気づかないうちにその後の考え方や感じ方に影響を与えているのです。

アンカリング効果は、心理学の世界ではとてもよく知られている考え方です。

人間の認知のクセのひとつとして、世界中の研究者に注目されています。

意識していなくてもアンカーの影響は大きい

人はつねに合理的に判断していると思われがちですが、実際には多くのバイアス(思い込み)に左右されています。

その中でもアンカリング効果は特に強力で、たとえ最初に見た情報がまったく見当違いだったとしても、あとからの判断に大きく影響してしまいます。

この心理効果は、マーケティング、価格の見せ方、交渉、医療の意思決定、さらには日常の買い物にいたるまで、あらゆる場面に関わっています。

ビジネスでも恋愛でも誰にでも起きている

たとえば、数字に強いビジネスパーソンであっても、見せられた最初の見積もり金額が基準になって、その後の判断に引っ張られてしまうことがあります。

恋愛の場面でも同じです。

過去の恋人との経験や印象が、新しい出会いに影響してしまい、公平に相手を見ることが難しくなることがあります。

最初に得た印象や情報が、後の評価に影響するという点では、どちらのケースもアンカリング効果の一例と言えるでしょう。

アンカリング効果を知れば、冷静な判断がしやすくなる

アンカリング効果は、心理学の専門用語に見えるかもしれません。

でもこの考え方は、毎日の生活や仕事の中に自然と入り込んでいるものです。

アンカリング効果の存在に気づくことで、自分の判断がどこから影響を受けているのかが見えてきます。

そうすれば、もっと冷静で納得感のある決断をすることができるようになります。

アンカリング効果の有名な実験とその歴史

アンカリング効果という考え方が広く知られるようになったのは、1974年のある実験がきっかけでした。

この実験を行ったのは、行動経済学の第一人者として有名なダニエル・カーネマンさんとエイモス・トヴェルスキーさんです。

心理学や経済学の研究において、ふたりはとても大きな影響を与えてきました。

アンカリング効果がどのようにして提唱されたのか、そのきっかけとなった実験について紹介します。

数字が人の判断を大きく変えることを示した実験

カーネマンさんたちの実験では、「まったく関係ない数字」が人の判断にどう影響するかを調べました。

まず、被験者にルーレットのような装置で数字をランダムに見せます。

この数字には、特に意味はありません。

ただのランダムな数です。

そのあとに、「アフリカの国連加盟国の割合は何%くらいだと思いますか?」という質問をします。

すると、驚くべきことがわかりました。

ルーレットで高い数字を見た人は、アフリカの国連加盟国の割合を高く見積もる傾向がありました。

逆に、低い数字を見た人は、割合を低めに見積もったのです。

この結果は、「最初に見た数字(アンカー)」が、そのあとの判断に大きな影響を与えていることを示しています。

まったく関係のない数値だったにもかかわらず、人の答えは明らかにその数字に引きずられていました。

計算の順番だけで答えが大きく変わる?

カーネマンさんとトヴェルスキーさんは、もうひとつ興味深い実験を行いました。

今度は、1から8までの掛け算を2パターン用意しました。

ひとつは「8×7×6×5×4×3×2×1」というように、大きな数字からスタートするもの。

もうひとつは「1×2×3×4×5×6×7×8」というように、小さな数字からスタートするものです。

どちらも、計算する内容はまったく同じです。

ですが、被験者に数秒だけ考えさせて概算をしてもらうと、最初に大きな数字を見たグループの方が、ずっと大きな数字を答える傾向が見られました。

つまり、最初に目にする数字の順番だけで、人の直感的な判断が変わってしまったのです。

「合理的に考えているつもり」がそうではないかもしれない

このような研究結果から、アンカリング効果の影響力は非常に大きいことがわかってきました。

人は「ちゃんと考えて答えを出している」と感じていても、実は無意識のうちに最初の数字に引きずられていることがあるのです。

しかも、それが全然関係ない情報であってもです。

この効果が知られるようになってから、心理学だけではなく、経済学やマーケティング、政治の分野でも応用されるようになりました。

いまでは「アンカリング」という言葉そのものが、ビジネスや教育の現場など、さまざまな分野で共通語として使われるようになっています。

アンカリング効果の仕組みとは?心理学のモデルから理解しよう

アンカリング効果は「最初に見た情報に引っ張られてしまう」現象でしたが、実はその背景には、心理学的に説明できる仕組みがあります。

ここでは代表的な2つの理論を紹介します。

「なぜそんなに影響されてしまうのか?」という疑問に、ヒントが見つかるかもしれません。

アンカリング‐調整ヒューリスティックとは

まず紹介したいのが「アンカリング‐調整ヒューリスティック」という考え方です。

このモデルでは、人は最初に受け取った数値や情報を出発点(アンカー)にして、そこから調整を行うとされています。

つまり、「最初の値がちょっと高いかな」と感じたとき、そのあとに少し下げて判断しようとするイメージです。

ですが、この調整がいつも適切とは限りません。

むしろ、多くの場合は「調整が足りない」まま判断が終わってしまうのです。

その理由のひとつが、私たちの脳にある“認知資源の限界”です。

人は情報を処理するエネルギーに限りがあり、時間がなかったり、他のことに気を取られていたりすると、深く考える余裕がなくなります。

結果として、「まあ、これくらいかな」という軽い調整で済ませてしまい、アンカーの影響を大きく受けることになります。

たとえば、買い物中に商品の価格を判断する場面を思い浮かべてみてください。

最初に「通常価格 8,000円」と書かれた商品があったとします。

そのあとで「セール価格 5,800円」と見せられると、多くの人は「お得だ」と感じてしまいます。

このとき、本当は他の商品と比較したり、品質をチェックしたりするべきですが、脳はエネルギーを節約しようとして、深く考えずに判断してしまうのです。

実はこの影響、専門家にも見られることがわかっています。

たとえば、不動産のプロである査定士であっても、事前に見せられた参考価格に影響されて、評価額が変わってしまうことがあります。

「プロだから大丈夫」というわけではないのです。

アンカリング‐調整ヒューリスティックは、それほど私たち全員に共通する判断パターンなのです。

選択的アクセス理論とは

もうひとつ注目したいのが、「選択的アクセス理論」です。

これは、最初に見たり聞いたりした情報に関連することばかりを思い出しやすくなる、という仕組みです。

つまり、最初の情報が“検索のフィルター”のような役割を果たし、その周辺のことだけが頭に浮かびやすくなるというわけです。

たとえば、ある人の年収を推測するとき。

直前に「弁護士」「外資系企業」といった言葉を聞いていた場合、自然と高収入のイメージが頭に浮かび、予想も高めになりやすくなります。

このように、脳はあらかじめ設定された“前提”に引っ張られ、そこに近い情報ばかりを集める傾向があるのです。

一見すると効率的なようにも思えますが、これは情報の偏りにつながる原因にもなります。

とくに広告や政治の世界では、この効果が意図的に使われることもあります。

たとえば、「安心」「実績」「選ばれています」といった言葉を事前に見せておくことで、製品や候補者に対する印象を操作しやすくなるのです。

その結果、私たちは「たしかに良さそう」と思ってしまいがちですが、実は選択肢全体を見渡せていない可能性があります。

だからこそ、どんな情報が最初に目に入ったかを意識することが、冷静な判断には欠かせないのです。

再現実験でもブレない?アンカリング効果の信頼性

アンカリング効果は、昔から多くの研究者によって検証されてきたテーマです。

中でも1999年以降は、「自己生成アンカー」と「外部与件アンカー」の違いに注目した研究が増えてきました。

自己生成アンカーというのは、自分の頭の中で思い浮かべた数値のこと。

一方、外部与件アンカーは、他人から提示された数値や情報を指します。

どちらのアンカーがより強い影響を与えるのか、という点は、長年議論されてきたテーマのひとつです。

ここ数年は、「人の集中力やモチベーションが高ければ、アンカーの影響を減らせるのではないか?」という新たな視点からの研究も行われています。

たとえば、2024年にはオンラインで行われた大規模な再現実験がありました。

この実験では、参加者の認知負荷(頭の使い方の負担)や、正確に答えようとする動機づけ、さらには「アンカーに気をつけてください」といった注意喚起が与える影響を検証しました。

その結果、どの対策を講じても、アンカリング効果そのものを大きく弱めることはできなかったのです。

つまり、「最初に見た数値の影響から完全に逃れるのは、やっぱり難しい」ということが、改めて確認された形になります。

この結果は、行動経済学の世界でも大きな意味を持ちます。

アンカリング効果は、単なる一過性の現象ではありません。

多くの研究やメタ分析でも、効果の強さや安定性が繰り返し裏付けられてきました。

実験の再現性が非常に高いという点も、他の心理効果と比べて大きな特徴です。

だからこそ、アンカリング効果は「よくある心理現象」ではなく、「避けるのが難しいほど自然に起こるバイアス」として、しっかり意識しておく必要があります。

アンカリング効果に似ている心理効果とは?

アンカリング効果に似ている心理効果とは?

アンカリング効果を知ると、「ほかにも似たような心理効果ってあるの?」と気になるかもしれません。

実はあります。

フレーミング効果とプライミング効果という、どちらも人の判断に大きな影響を与える考え方です。

ここでは、アンカリング効果と関係の深いこの2つの心理効果について、わかりやすく紹介します。

表現の仕方で印象が変わる「フレーミング効果」

フレーミング効果とは、同じ内容でも「どう伝えられるか」で印象が大きく変わるという現象です。

たとえば、ある治療法について「90%の成功率があります」と聞いたとします。

すると、なんだか安心できる印象を受けるのではないでしょうか?

でも、もし同じ治療法について「10%の確率で失敗します」と言われたら、どうでしょう。

少し不安に感じるかもしれません。

実はどちらも、伝えている数字はまったく同じです。

それなのに、言い回しの違いによって、私たちは違う感情を持ってしまいます。

これは、情報をただ受け取っているようでいて、実際には感情や文脈をもとに判断していることの証拠です。

事前に見た情報が心に残る「プライミング効果」

もうひとつ、プライミング効果というものもあります。

これは、ある情報やイメージにふれたあとで、その関連情報に無意識に影響を受けてしまうという現象です。

たとえば、「老人」「杖」「ゆっくり」といった言葉を読んだあとで、実際に歩くスピードがゆっくりになる人がいることが、研究でわかっています。

このように、ふだんは意識していない言葉やイメージでも、行動や判断に影響を与えていることがあるのです。

プライミング効果は、広告やブランド戦略でもよく活用されています。

たとえば、やさしい音楽やイメージを見せたあとに商品を紹介することで、購買意欲を高めるなどの工夫です。

複数のバイアスが組み合わさることもある

アンカリング効果、フレーミング効果、プライミング効果は、似ているようでそれぞれ少しずつ違います。

でも、ひとつだけではなく、これらが一緒に働くこともあります。

たとえば、ある商品の価格がアンカリング効果で「お得」と感じられるように設定されていて、そのうえでフレーミング効果を使って「今だけ!残りわずか!」と伝えられると、ますます欲しくなってしまうかもしれません。

このように、意思決定はひとつの要素だけで決まるわけではありません。

知らないうちに、いくつもの心理的な影響を受けながら選んでいることがよくあるのです。

アンカリング効果の具体例を日常から見てみよう

アンカリング効果は、どこか特別な場面でだけ起きるものではありません。
じつは、日常のなかでもごく自然に、そして頻繁に起きています。

ここでは、スーパーでの買い物や営業の現場など、身近な場面にしぼって、アンカリング効果がどう使われているかを紹介します。

スーパーの値札が“アンカー”になっている?

たとえば、スーパーでこんな値札を見たことはありませんか?

「通常価格5,000円の商品が、本日限定で2,980円!」

このとき、最初に目に入る「5,000円」という数字が、アンカーの役割を果たしています。
つまり、最初に提示された5,000円が「基準」になって、そのあとに見る2,980円が「お得」に感じられてしまうのです。

冷静に見れば、その商品が本当に2,980円の価値があるかはわかりません。
ですが、人は最初に見た数字と比べて「高い・安い」を判断しがちなので、「これは安い!」と感じて、つい手に取ってしまうことがあるのです。

このように、価格の“絶対的な価値”よりも“最初に見た価格とのギャップ”に意識が向いてしまうのが、アンカリング効果の典型です。

営業や価格交渉でもよく使われている

営業や価格交渉でもよく使われている

営業の現場でも、アンカリング効果はよく使われています。
たとえば、製品やサービスを提案するときに、こう伝えるパターンです。

「本来なら100万円のところ、今回は特別に80万円でご提供します」

このように言われると、つい「お得に感じる」という気持ちが働くことがあります。
なぜかというと、最初に提示された100万円が“基準”になってしまっているからです。

たとえ80万円が市場価格の相場だったとしても、最初の金額があることで、「安くなった感覚」が生まれます。
これもアンカリング効果の影響です。

しかもこの手法は、対面の営業だけではなく、ネット広告やオンラインショップの価格表示にもよく使われています。

たとえばECサイトで「メーカー希望小売価格」「当店通常価格」といった情報が並んでいるのをよく見かけます。
これらも、最初に高い価格を見せることで、今の価格がより魅力的に見えるようにしているのです。

数量限定や「今だけ」もアンカーづくりの一部

さらに、よく見かける「残り〇点」「期間限定セール」といった言葉も、アンカリング効果と相性が良い仕掛けです。
「今決めないと損をするかもしれない」と感じさせることで、アンカーに基づいた“焦りの判断”を引き出しているのです。

こうした戦略は、消費者にとってはお得に見えても、冷静な判断を鈍らせる原因になることもあります。
だからこそ、情報の見せ方に注意を向けて、「本当に必要なものかどうか」を一度立ち止まって考えることが大切です。

アンカリング効果はマーケティングでどう使われている?

アンカリング効果は、日常の買い物だけではありません。
実は、マーケティングの世界でも、かなり巧みに使われています。

ここからは、ビジネスの現場でどのように活用されているのかを見ていきましょう。

高いプランを見せて中プランを選ばせる「デコイ効果」

サブスクリプションサービスなどで、いくつかの価格プランが並んでいる場面を見たことがあるかもしれません。

たとえば、「月額980円」「月額1,480円」「月額2,480円」の3つが提示されていたとします。

このとき、いちばん高い「2,480円」のプランが目立つように表示されていると、「1,480円」がちょうど良くてお得に見えてしまうのです。

これは「デコイ効果」と呼ばれ、アンカリング効果のひとつの応用です。

一番高い金額が“アンカー”となり、その後の価格が安く感じられるように、うまく設計されています。

消費者は「真ん中がバランス良さそう」と考えて選ぶことが多いため、企業側はこの心理を利用して、希望するプランに誘導しているのです。

店舗の値札やポップにもアンカーが仕込まれている

お店のポップや値札でも、アンカリング効果はよく使われています。

たとえば、「今だけ特別価格!」「定価から30%オフ」「通常価格◯◯円」などの表示を見たことはありませんか?

このとき、最初に示される“通常価格”がアンカーになって、その下にある割引価格が魅力的に見えてくるのです。

つまり、値引きされた金額そのものよりも、「もとの価格と比べてどうか」で判断してしまっているというわけです。

こうした価格の見せ方は、商品そのものの価値とは別に「お得に見せる」ことを目的にしています。

人は“比べること”に弱いため、価格の絶対的な価値よりも、比較によって「今、買わないと損かもしれない」と感じてしまうのです。

ネットショップにもある“見せ方”の工夫

オンラインショップでも、アンカリング効果はしっかり活用されています。

たとえば、「カートに入れたあとに表示されるおすすめ商品」や、「他のユーザーが一緒に買っている商品」が並ぶとき、その順番や価格帯によって、選び方が変わることがあります。

最初に高めの商品が表示されると、そのあとに出てくる商品が「手頃な価格」に見えやすくなるのです。

このようにして、ユーザーは自分で選んでいるつもりでも、実はうまく導かれているケースが多いのです。

見せ方ひとつで判断が変わってしまうのは、それだけアンカリング効果が私たちの意思決定に深く関わっているということです。

心理的な影響を利用するからこそ倫理も大事

こうしたテクニックはマーケティングにとっては強力な武器です。

ですが、消費者が気づかないうちに高価格の商品を選ばされてしまうこともあるため、企業側には一定の配慮が求められます。

消費者としても、目の前の価格やキャンペーン表示に惑わされすぎず、「本当にその商品が必要なのか?」をしっかり見極めることが大切です。

アンカリング効果にはデメリットもある

アンカリング効果は、うまく活用すればとても便利な心理現象です。
ですが、良い面ばかりではありません。

使い方や場面によっては、判断を誤るきっかけになってしまうこともあります。
ここからは、アンカリング効果がもたらす「落とし穴」について見ていきましょう。

不動産や投資では「過去の価格」が足かせに

たとえば、不動産や株式投資のようにお金が動く場面では、アンカリング効果がリスクになることがあります。

よくあるのが、「自分が買ったときの価格」を強く意識してしまうケースです。

たとえば、株を1株1万円で購入した人がいるとします。
その株が現在9,000円まで下がっていたとしても、「せめて1万円に戻ってから売りたい」と考えてしまうことがあります。

ですが、これは冷静な判断ではありません。
その株の価値が将来どうなるか、本当はもっと多くの情報から判断すべきです。

それでも最初に買った価格が“基準”となって頭に残り、現実の相場を無視してしまう。
このように、アンカーとなった金額が合理的な判断を妨げてしまうのです。

「損切りが遅れてしまった」「チャンスを逃した」などの失敗も、じつはアンカリング効果が影響していることがあります。

恋愛でも「過去の相手」との比較が邪魔になる

アンカリング効果は、感情の世界にも入り込んできます。

恋愛の場面では、過去の恋人の印象や経験が無意識に“基準”になってしまうことがあります。

たとえば、「前の恋人はもっと優しかった」「元カレは年収が高かった」といった思い出が残っていると、新しく出会った相手を正しく見ることが難しくなるかもしれません。

過去と比べるあまり、本来は魅力的な相手の良さを見逃してしまうこともあります。

また、期待値が上がりすぎることで、相手に対して不満を感じやすくなることもあるのです。

こうした無意識の比較は、せっかくの出会いを遠ざけてしまう原因になることもあるため、注意が必要です。

教育や人事評価にも影響が出ることがある

学校や職場でも、アンカリング効果が悪い影響を与える場面があります。

たとえば、生徒の成績や部下の第一印象が強く記憶に残ってしまうと、あとからどんなに成長しても、「最初の印象」に引っ張られてしまうことがあります。

これにより、本来なら高く評価されるべき努力や成果が見逃されてしまうかもしれません。

正当に評価されないと、生徒や社員のモチベーションが下がることもあります。
さらには、適材適所の人材配置がうまくいかず、組織の効率にも影響が出てしまう可能性があります。

アンカリング効果の「影」を意識しておこう

アンカリング効果は、私たちのあらゆる判断に関わってくる力強い心理作用です。

だからこそ、その存在をただ便利なものとして見るだけではなく、「誤った判断を招くこともある」と知っておくことが大切です。

大事な決断をするときには、「この基準、本当に正しいのかな?」と立ち止まってみる。
そんな小さな意識が、後悔のない判断につながるはずです。

アンカリング効果への対策方法とは?

アンカリング効果はとても強力ですが、影響をやわらげるための方法もいくつか知られています。

完全に避けることは難しいですが、ちょっとした工夫で判断のバイアスを減らすことができるんです。

「逆だったらどうなる?」と考えてみる

アンカリング効果を抑える方法の中で、最もよく知られているのが「consider-the-opposite(逆を考える)」という手法です。

これは、「もし最初に見た情報が正反対だったら?」という前提で考えてみる方法です。

たとえば、高い価格を見たあとに判断する場面では、「もし最初に安い価格を見ていたら、どう感じるだろう?」といったように、わざと逆の立場から見直してみます。

こうすることで、最初に受けた影響から少し距離を取ることができます。

感情に流されにくくなり、客観的な判断がしやすくなるのです。

複数の視点から見直す「メンタル・マッピング」

もうひとつおすすめなのが、「mental mapping(メンタル・マッピング)」という方法です。

これは、1つの情報に頼らず、複数の軸で物事を比較してみるという考え方です。

たとえば商品の購入を検討するとき、価格だけでなく、性能やサポート体制、使いやすさなどもあわせて表にして比べてみます。

こうやっていくつかの要素で評価し直すことで、最初に見た数値の影響が弱くなり、よりバランスのとれた判断ができるようになります。

とくに高額商品や長く使うものを選ぶときには、この方法がとても効果的です。

一晩寝かせる・複数見積もりをとるのも有効

すぐに決めない、というのも立派な対策になります。

判断に迷ったときは、一晩置いて翌日もう一度考えてみるのがおすすめです。

時間をあけることで、感情の波が落ち着き、冷静に考え直すことができます。

また、1つの選択肢だけを見るのではなく、複数の見積もりを同時に見て比べるのも効果的です。

違う条件や視点が入ることで、ひとつのアンカーに引きずられるリスクが減ります。

数字の出し方もポイントです。

たとえば「およそ10万円」と言われるより、「98,700円」と言われたほうが、自然と「本当に妥当かどうか」をじっくり考えるようになります。

このような具体的な数字のほうが、無意識に疑問を持ちやすくなるのです。

他の人の視点も取り入れてみよう

自分だけで判断しようとせず、信頼できる人に意見を聞いてみるのもおすすめです。

ときには、まったく違う視点から新しい気づきが得られるかもしれません。

また、買う側ではなく売る側だったらどう考えるか?といった立場の入れ替えも、バイアスを減らす手助けになります。

アンカリング効果は誰にでも起こるものです。

でも、こうしたちょっとした工夫を重ねることで、少しずつその影響を小さくしていくことができます。

納得できる判断ができるよう、自分の「思考のクセ」に意識を向けてみてくださいね。

まとめ:アンカリング効果を理解して、賢く選ぶ力をつけよう

アンカリング効果は、日々の生活の中に自然と入り込んでいます。

買い物や値段交渉だけでなく、仕事の判断や政策づくりの場面でも、気づかないうちに影響を受けていることがあるのです。

たとえば、価格表示の工夫や言葉の使い方ひとつで、受け取り方が大きく変わることもあります。

実際に、教育や医療、環境などの分野でも、最初にどう情報を提示するかによって、人々の選択や行動が変わる例が増えています。

それだけ、最初に与えられる情報=アンカーの影響は、とても大きいということです。

アンカリング効果を知っておくことは、心理学の知識というだけではありません。

日々の選択をより納得感のあるものにするための、大事な「考え方の土台」と言えます。

最初に見た情報にどのくらい自分が影響されているのか。

どこまでが自分の判断で、どこからが情報の仕掛けによる誘導なのか。

そうした視点を持っておくだけで、判断の質はぐっと上がっていきます。

何かを選ぶとき、決めるとき、「その考えはどこから来たのか?」と一度問いかけてみてください。

その小さな意識が、アンカリング効果から距離をとり、より柔軟で賢い判断につながっていきます。

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